「一冊、一室。」にいたる、”書店裏”での打ち合わせ。
「一冊、一室。」を妄想する旅。本という窓を開いて出会った人、風景、もの……。毎月どこかでおこっている人、風景、もの×森岡さんを「カケル」としてお伝えするこの不定期連載。
今回のカケル人は、音楽家・映像作家の岡本憲昭さん。 森岡が出張中のため、書店スタッフ栁澤がカケさせていただきました。


 


岡本憲昭 Noriaki Okamoto 


1983年大阪生まれ。音楽家・映像作家。 

「音楽と映像を用いた時間表現」を軸に、国内・国外で制作・活動・発表を行う。表現のフィールドを絞らず、自身の表現と「場」や「人」を繋ぎ、制作・発表を行うことを活動の指針としている。音源のリリースや、パフォーマンス、映像作品の制作、作家とのコラボレーション、クライアントワーク、ワークショップ、イベントの主催など、活動は多岐に渡る。  


ーー大阪生まれで、今は群馬にお住まいだそうですね。  


岡本 大阪は生まれだけなんです。父の仕事は転勤が多く、すぐにパキスタンに。


 −−パキスタンですか! 


岡本 はい。記憶はないんですけどパキスタンで2年暮らして、大阪に戻り、年長のタイミングで川崎に引っ越しました。妻が群馬出身で、戻りたいと希望していましたし、何回か行ったことがあって僕もいいところだなあと思っていたので、移住したんです。 


――音楽家であり、映像作家である岡本さんですが、どのような経緯でこの職業につかれたんですか?  


岡本 元々、大学で映像を専攻していて。コンペに出すとき、音楽が必要ですよね。人に頼むとお金がかかってしまうので、自分でつくっていたんですよ。音楽を始めたのは、それがきっかけです。当時、マイスペースというウェブ上で音源をアップできるサイトがあって、遊びでアップしていたら、マレーシアのレーベルから声をかけられたんです。


 ――マレーシアですか!? 


岡本 そう、マレーシア(笑)。最初、詐欺かなあなんて思ったんですけど。タワーレコードに見に行ったらそのレーベルのCDがあって。おお、詐欺ではないんだと。そこでやりとりして10曲くらい作ってデータを送ったら、次の月にはもうタワレコに並んでたんですよ。 


 ――ええ!? 


 岡本 いや、1年くらいかけてやりとりはしていたんですよ。 


――作っていた音楽っていうのは、どんなものだったんですか? 


岡本 プログラミングしたものですよね。電子音楽というか。当時、楽器も弾けませんでしたから。そんな状態でCDを出したので、音楽家になりたいというか、結果としてなってしまったんですよ。 


 ――なってしまった(笑)  


岡本 そこからが大変でした。楽器も弾けないで、いきなり出ちゃったんで。「ライブしてくれ」とかってあるじゃないですか。ライブってどうやるんだろう、配線って何?というような状況で、東京では大コケして。二回目がマレーシアのクアラルンプールで。それは、まあまあ好評で。  当時、海外もあまり行ったことがなかったし、英語もそこまで話せない状態だったんですけどね。そこで、マレーシアで初めてレーベルの人と会って、もう10年くらいのつきあいですかね。


 ――今も楽器は使わないんですか?  

 

岡本 いや、使うようになりました。自分の曲が弾けないのが悲しすぎて。鍵盤とキーボード、あとエフェクターを使いますかね。環境音や朗読を録音したもの取り入れたり。友達にひとりごとを言ってもらったのを流しながら、録音したり。音楽という感じではないかもしれませんね。  

 

――大学で映像を専攻されていたそうですが、どういうふうに映像作家になったんですか?  

 

岡本 とあるテーマで映像を作ってほしい、という仕事をいただいたんですけど。大学では実写ではなくてアニメーションだったんですよ。映像は作れても、カメラをほとんど使ったことがなかったのに、「カメラ、得意です」と嘘をついて。 

 

――やったことないけど、ライブをやる。カメラ使ったことないけど、実写とる。その勢いというか。一足飛び感がすごいですね!  

 

岡本 もう、やるしかないみたいな。でも、僕にとっては自然だったんですけどね。そうして、経験をつんで作品を作ってきた感じですね。  

 

 

 

 

――森岡と出会われたのは、インドでの撮影だったそうで。 (※21_21 DESIGN SIGHTで、2018年4月18日~5月20日まで開催された「Khadi インドの明日をつむぐ - Homage to Martand Singh -」展で、岡本さんは映像を、森岡はテキストを担当) 

 

岡本 そうなんです。21_21 DESIGN SIGHTのディレクターの方と森岡さんと3人でインドで作られているカディを取材したんです。インドの取材に呼んでもらったのも、多分マレーシアが関係しているんですよ。ライブでマレーシアの人たちと同行することが多くて、現地のコミュニティに入るのもわりと得意なんですよ。インドでやれるやつ、アドリブがきくやつってことで、岡本がいいんじゃないかってなったんだと思います。  

 実は恥ずかしながら、僕はそれまで森岡さんを存じ上げなくて。ベルリン在住の画家・中村翔大さんが友人なんですけど、彼が森岡書店で展示をやると教えてくれたときも、「盛岡の書店で展示をするのか!」と勘違いしていたんです。 

 

 ――インドの取材旅はいかがでしたか?  

 

岡本 いやあ、面白かったですよ。男3人、空港に降り立って。事前に調べてきた情報と現地の情報って、また違ったんですよね。やばい、なんか聞いてたのとちがうね、楽しめるね、じゃあ、どうまとめようか、と。みんなで、相談しながらその場でどんどん決めて行くのがおもしろかったですね。  

 僕、もともとコマーシャルもやっていたので、コンテを描いてきめたうえで映像を撮り始めると、最終的につまらなくなるっていうのを何度も経験していて。音楽もそうなんですけど、予想できるものってつまらないですよね。  

 

 

――今回の作品は、何作品目なんですか?  


岡本 7作目ですね。音源が5枚、参加型音源が1枚、本1冊です。 


――参加型音源ってなんですか?  


岡本 前々作で作ったものなんですが、今まで、音楽としてCDだと、映像とはどうしてもわかれてしまうでしょ。そこに違和感があったんです。もっとダイレクトなことできないかと思ったんです。そこで、「時間」を作ろうと思ったんですよ。テーマとしては、よくアジアに行って、東京に来て、群馬に戻って、ということをしょっちゅうやっていた。今、ここでこうやって話をしているときに、マレーシアでおこっていることがあるでしょ。各地にある時間というか。それをそのまま表現できないかと思ったんですよ。そこで、その音、映像の収集をしようと思って。Facebookであなたの住んでいる街、日常、感じたことを撮って送ってくれって頼んだんですよ。ドイツだったり、台湾だったり、マレーシアだったり、けっこう集まって。この音楽と映像を全部混ぜて、5曲作ったんですけど。1から5曲と分かれているのではではなくて、1から5が全部まとまった1曲を作ったんですよ。長さ23分あって、もう組曲ですよ。 「HERE/THERE」というタイトルなんですけど。 


――それが、前作の参加型音源というわけなんですね。今回の作品は、台湾人アーティストのmisi Ke(ミシケ)さんと、共作なんですね。森岡書店にいらっしゃる台湾人のお客様に聞いたら知っている方が多かったんですが。  


岡本 彼女は台湾のインディーズのシンガーソングライターなんですね。そもそもは、マレーシアのライブハウスの友人のFacebookを見ていると、台湾のミシケがライブにくるって書いてあって。PVとウェブサイト見てたら、“わ、僕と同じことしてる”って驚いたんです。時間への捉え方が同じだったんですね。すごく「HERE/THERE」と同じものを感じたんです。   

 それで、「一緒になにかしたほうがいいと思うんですけど、どう思います」ってメッセージを送ったんですよ。友達は、けっこう有名だし返事なんてこないんじゃない、って感じだったんですけど、それが3日後に来たんですよ。 


――はやいじゃないですか!


 岡本 それもけっこうのりのりで(笑)、やろうやろうと。それが2017年。 とりあえずイメージしたサウンドをメールで送り合おう、と。僕は、言葉を作ってマックに読み上げてもらったデータとか、夜のコンビニの音を混ぜたものを送ったりしてたんですよ。ミシケも移動をけっこうする人で、アメリカでとって来た音を送って来たり。僕が弾いたピアノの音に、歌をのせてきたり。それが、半年くらい続いたかな。もう、完全に文通ですよね。  

 ミシケに、5月に台湾でライブやるからこないって言われて、行く行くと。それで、ライブ見たらすごいんですよ。翌日初めて会って、喫茶店で3時間くらい話しましたね。僕もミシケも英語下手なんで、グーグル翻訳使いながら。時間についての話をすごいして。

 それから、仲良くなって。日本に来ることになって。うちの妻とも遊んだり。せっかくだから作った曲をレコーディングしたい、って言われたんですよね。じゃあ、スタジオを押さえようと。でも、感覚の人だから、感覚を刺激するような場所がいい。そこで、僕がすごく好きな群馬の廃校をスタジオとして使うことにしたんですよ、収録中に輪投げの同好会のおじいちゃんたちが入ってくるような(笑)。もし、防音スタジオでとっていたら、また全然違うものになっていたと思います。 


――今回のCD(マキシシングル型)は、日本では展示会のみで購入できるんですよね。2/22が日本での発売日なので、森岡書店が先行限定発売なんですね。  


岡本 はい。 2/22のリリース日には Apple music等での発売(データ販売)のみの予定です。 同日、台北ではCDも販売されます。


 ――基本的にデータ販売で、CDという形をもうとらないのが音楽界では普通なんですってね。 


岡本 そうなんですよ。日本はまだCDが主要なメディアとして扱われているじゃないですか。でも、ドイツから友達が来るとみんな驚くんですよ、CD超売ってるやん!と。ドイツでは、ドイツの友人から「スペシャルなものをやるよ!」と言われてみたら、CDだったり。 カセットテープは価値があるものとして、また音楽好きの間でもまた流行ったりしてますよね。そんな感じで、CDって日本以外ではかなり見なくなっていると感じていて。  

 でも、僕もミシケもレーベルの人もCDいいじゃん、と思っている。たとえば、ミシケのCDを見るといろいろブックレットが詰まっているんですよ。音だけでなく、ものを作ることに心があって、かっこいい。だから、今回あえてCD のなかでもEP(マキシシングル型)のかたちにしたんです。 


 ――マキシシングルが逆に今かっこいいんじゃないかと。


 岡本 森岡書店で展示も決まっていたので、データではなく、ものとしてかたちにもしたかったんですよね。本の方は、台北在住のアメリカ人写真家kd sunが、ずっとこの制作風景を記録してくれていて。その写真集「I remember」を販売します。台湾で作っているので、無事届くといいな(笑)  

 



2019年2月12日(火)~17日(日) 

東京 森岡書店 銀座店 13:00~20:00

 ※最終日のみ13:00~18:00 

オープニング: 2019年2月12日(火)18:00~19:30 

サインイベント: 2019年2月17日(日)15:00~16:00