「一冊、一室。」にいたる、”書店裏”での打ち合わせ。「一冊、一室。」を妄想する旅。本という窓を開いて出会った人、風景、もの……。毎月どこかでおこっている「カケル 森岡さん」をお伝えしていきます。今回はキャンドルアーティストのマエダサチコさんとのトークを。本作りのきっかけから話しを進めながら、素顔のマエダさんが垣間見れる質問も飛び出しました。

写真撮影:下村しのぶ
<キャンドルの香りに包まれて、マエダさんと本作りの話>




森岡:「キャンドル教本」(誠文堂新光社)は9年ぶりのキャンドル作りの本ということですが、前回の本と比較すると、とても厚みがありますね。こういうボリュームの本を作るのって、すごいエネルギーがいると思うんですけれど、まずはそのきっかけから教えていただけますか?

マエダ:キャンドル作りは昔と違って、ブームになりましたよね。私の教室にもたくさんの生徒さんに来ていただいています。けれど、その方たちと話をする中で、ワックスのことや基本的なキャンドル作りのことについて、実はとても知らないということに気づいたんですね。それが衝撃だったんです。そのことで、自分の持っている技術を広く伝えなければと思ったんです。世に出したいなと。そして、その技術を載せるなら、勉強になる本にと思いました。

森岡:キャンドルの技法は様々あると思いますが、そもそもどうやってキャンドル作りの技法を身につけたんでしょうか?

マエダ:習った、ということはなく、全て独学でした。私がキャンドルを作り始めた頃は、まだ作っている人が少なかったんですね。そんななか、当時、お洋服のブランドさんとかからノベルティの注文がくるわけです。需要が高すぎて、1日200個のキャンドルを姉と一緒に毎日作るという日々が続いていました。それをシーズンごとに続けていると、春夏と秋冬では、同じキャンドルを作っているのに、納品状態が違うということを知るわけです。キャンドルが溶ける温度も違いますから。この時期にこのワックスを使うと溶けるとか、加工はこの方がいいとか、失敗を繰り返すうちに原因もわかってきて。1個ずつではなく、大量に作るからこそわかってきたことがあったんですね。それを7年間続けていた。それで様々な技術を培ってしまったんです(笑)。

森岡:先ほど、ワークショップの手ほどきを見ているだけでも、人に伝えることがすごく上手だなと思っているんですが、教えたり、人に関わったりすることが、もともと好きというのはあるんでしょうか?

マエダ:もともと…大嫌いです(笑)。もともと人見知りですし。キャンドルとかもの作りをしようと思ったのも、人見知りすぎて、普通には勤められないなと思ったからで。家族と会話はできても、親戚とは会話できないくらいだったんです。だから学生の頃の夢は内職。とにかく人と接しない仕事。ものを作って売ること。通販などもあったので、何かを作って売る仕事をやっていこうと思ったのが中学生の時。そこからもの作りの方に興味が向いていきました。まさか教えるとは思っていませんでした。

森岡:そうとは思えないような。
マエダ:そうですね。人に慣れちゃいましたね(笑)。


森岡:本の話に戻しますと、先に出した2冊(「Vida=Feliz キャンドル作りの本」(主婦の友社)、「キャンドルで作るスイーツ」(文化出版局))と今回の本はかなり雰囲気が違うと思っていて。中の写真のテイストも、新刊はキリッとクールなイメージがあります。前作の明るい、可愛いイメージとはだいぶ違う世界観だなと、本を開くと思います。そのあたりの違いはどこから生じているのでしょう?

マエダ:最初の2冊は、編集の方が、私の作品を可愛い、明るいイメージで捉えてくださって、そういう世界観を表現できる、仲のいいスタイリストさんと一緒に作ったという本。世界観はスタッフに委ねて作った本というイメージですね。そんな風に誰かに委ねた結果、できるものも好きなんです。今回の本は、制作に入る前に編集の方が「どんな感じの本が好きですか」聞いてくださったんです。そこで、オーボンヴュータンのお菓子の本を見せたんですね。真っ黒の背景の真ん中にシンプルなケーキが載っているような写真で。それを見せて「これが好きです」と伝えたら、そういう風にしてくださった。

森岡:ということは新刊は、よりマエダさんの好みを反映しているということですね。

マエダ:好みはこっちですね。今回はスタイリストさんもつけずに、作品を際立たせるように写真を撮っていただきました。


森:苦労も大きかったと思いますが、いかがでしたか?

マエダ:すごく楽しかったですね。本当は5日くらいのはずが11日かかりました。朝から夜までフォトグラファーさんも大変だったと思うのですけど、合宿みたいで。皆が体育会系の感じ。すごく楽しい現場だったんですけど、ハードだったので、皆、意気消沈して帰るみたいな感じでしたね(笑)。

森岡:楽しく、心地よい疲労感もあって、本ができた。それが世に放たれることになって、その感想は? 本ができて思うことは?

マエダ:あまりないです。
森岡:そ、そうですか!
マエダ:楽しかったし、嬉しい、という気持ちが一番です。

森岡:作り方がすごく事細かに書いてありますが、これは大変だったろうなあと思うのですが。

マエダ:撮影は「3分クッキング方式」で進めたんです。固まるのに何時間もかかるので、一つの作品につき、作り途中のものを5〜6個用意して、次から次へと撮影していきました。

森岡:作り方がこれだけ詳しく載っていることは、読者にとって嬉しい一方で、これが世に出てしまったら、教室に通う生徒さんもこれを読んでしまえば作れることになってしまうような気がするのですが、そんな懸念があったのではないかなと。

マエダ:持っている技術を本で公開することには抵抗はもともとなかったんですね。「みんなに真似されるんじゃないか」と、心配してくださる方もいらっしゃるのですが、実際にそういうこともありましたが、そこはあまり気にしていなくて。でも確かに、本を出すとなった時に、生徒さんのことは気になりましたね。ワークショップや授業を受けてくださっていますし、いいのかなと。でも、詳しく作り方が載っていても、やっぱり一緒に作った方がわかりやすい、ということはありますし。趣味で作っている人も、講師をやっている人も、これを見て作ってくれて、もっとキャンドルが広まるのであれば、その方がいいなと思いました。

ー続きますー