「一冊、一室。」にいたる、”書店裏”での打ち合わせ。
「一冊、一室。」を妄想する旅。
本という窓を開いて出会った人、風景、もの……。
毎月どこかでおこっている「カケル 森岡さん」を伝えていく連載。
写真家 津田直さんとの話、最終回。
最後は「本」というかたちの話になりました。


no.3 「本」という形だからこそできること。


津田:今回の新作『Elnias Forest」というシリーズは実は、本を作りたいということから始まったんですね。その時に編集の盆子原さんが興味を持ってくださって。だから展覧会の予定はなかったんですが、現在、僕が福岡県を拠点にしていることから、昨年三菱地所アルティアムから声がかかって。新作がちょうど半ばまで進んでいたので、だったら新作を出したいなということになりました。展覧会は福岡と山梨でやりますが、本は東京では森岡書店で初披露になります。オリジナルプリントと、本を同時に見る機会になればと。森岡さんと新作の本で展示をするのは、すごい久しぶりですもんね。僕はだいぶ嬉しいです。

森岡:僕もだいぶ嬉しいです。

津田:この本は今の時代の消費されていく速度とは違うところで発生している本だから、自分の中で本としての独立感があるというか。本の魅力は、誰かが開いたところから始まるということだと思っていて。それが他の仕事との大きな違い。僕の力で開くのではない、というのが違うと思うんですよね。展覧会の場合は、作家と協力者がいて、空間があって、そこに一気に人を集める、多くの人と共有する、そういうライブ感があると思うんです。でも本は、扉がいつ開くかっていうのはわからない。人それぞれ違う時間に開くので、僕にとっては、時間軸としてかなり長いものになる。もしかしたら、一番最後に開かれるものは何年も先かもしれないわけで。つまり本は眠ったり起きたりするという意味でも特殊だなと思っていて。今回のシリーズは、そういう、本という存在との相性もいい気がしています。本を作るということは『2018年という今を生きています』というのとは違うレベルで完成していくような気がしています。本って基本的にはしまってあるものだから、光の照らされる時間が限られていているというか、ちゃんとしまいこんでおこうという感じがある。『本を出すからどんどん見てね』というよりは、『自分の中できっちりしまっておくので、開けたい人はどうぞ』という感覚。本はそんな「闇」感があるので、本でしかできないものがあるんです。

森岡:今の話を聞いていて、昔、津田さんがビームスのショッピングバックを手がけたときに『今の都市に足りないものは厚みである』とおっしゃっていたことを思い出しました。
津田:自分でもよく、人の写真集をめくる時は、1日1枚くらいしか見られないな、と思うんですよ。例えばこの森の写真を、またはこの写真のページを開いて、朝、テーブルの上に置いておいたとします。朝見た時の感じと、夜家に帰ってきて、暗い中でちらっと見えるような森の感じと、電気をつけたときに見える感じと、何種類か見え方が変わりますよね。おそらくそれは、この森がそういう場所だから、僕らに作用するということがあると思うんです。時間とか土地とかとつないでいくために、写真という扉がある気がするから、厚みっていうものを追いかけていかないと、たどり着かないというのがあるんじゃないですかね。本というものはそもそも厚みを持って綴じているから、ちょっと想像しやすい。開いているページの下にまだ写真が並んでいるわけで、まだ見ていないという世界がすでにあるから。

森岡:本って窓みたいですものね。部屋にある窓というか、異界にいく窓というか。開いたらそこに行ける。

津田:ひとつ、その、いいなと思うのは、その連なりというか。本の場合だと一気には見えない、いちいち閉じていて、次のページにいく。よく僕が思うのは、美しいものというのは素数でできているということ。本もすごく素数的なものですよね。見ている時は1とか2とか、1枚とか2枚組とか、そういう範囲でしかない。だから飛び込んでくる範囲が大きくはなっていかないというか。複数形になっているのに素数感があるというか。全体としてはものすごく複数なのに、各ページページは全部素数だから、それは人間が生きている、1日1日の単位とすごく合う気がするんです。だから、写真を見るのは1日1枚くらいで十分だっていうかね。

森岡:なるほど。

編集室:ページをめくっていく、という意味での質問ですが、今回の「Elnias Forest」という本の構成は、どんな風に考えられたのでしょうか?

津田:この本については、ちょっと特別かもしれないですね。

森岡:それは聞きたいですね!


津田:目次を見るとわかるんですが、実は9つに章を分けています。でもきっちり全体を9に割ったわけでなはくて、9つの節目が最初から実は自分の中にはあったんです。今回珍しく、僕の中では流れがあって、明確な言葉もあったし、9つに分けたいというのがあったんですよ。なぜ9つなのかというのが実は「エリナス」に繋がる話なんですね。
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※続きはトークイベント会場にて。「9」と「エリナス」にまつわる話などをどうぞお楽しみに!

ープロフィールー
津田直
写真家。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。2001年より個展を中心に多数の展覧会を開催。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。2012年より東京と福岡の二拠点にて活動。

ーインフォメーションー
『Elnias Forest』 
版元:handpicked
金額:¥5,500+税
デザイン:須山悠里
森岡書店での展示は6月19日(火)〜24日(日)
トークイベントも開催予定!
6月21日(木)を予定。