「一冊、一室。」にいたる、”書店裏”での打ち合わせ。
「一冊、一室。」を妄想する旅。
本という窓を開いて出会った人、風景、もの……。
毎月どこかでおこっている「カケル 森岡さん」をお伝えしていきます。
第一回は写真家 津田直さん。
6月に出版する写真集『Elnias Forest』の展示の打ち合わせにて。


no.1 揺らぐ国を追い求めて。


打ち合わせは、まさに刷り上がったばかりの用紙見本を見ながらはじまりました。


森岡:今日はありがとうございます。また津田さんと展示ができるということで嬉しいです。

津田:知り合ったのは2007年ですかね。僕の写真集『漕』の本のときですね。これは初めて日本を意識して撮ったシリーズでした。

森岡:本当に素晴らしいんですよ!

津田:日本家屋で写真を発表して。そして本にしたものを、茅場町時代の森岡書店で展示していただいんたんですよね。

森岡:僕は『漕』を見ていて素晴らしいと思っていたところに、ご縁をいただいたんです。造本も素晴らしかった!

津田:初めて自分で装丁まで行った本だったんです。そういえば、最近もあのシリーズの声がかかって。昨年も美術館で展覧会をやっていたんですよ。10年以上経っているけど、まだ展覧会が続いている。

森岡:流行とかに左右されるものではない、そういう作品ですね。

津田:琵琶湖の最北端に昔、船でしか入れない村があって。40年くらい前まで、道路が通っていなくて、そこには船でしか入れなかったんです。その集落を舞台にした、僕の風景論みたいなものを、写真と言葉を主に発表した作品でした。散文的な言葉だったり、漁師の言葉だったり、老婆からの聞き書きだったり、旅の中でメモしていた言葉だったりを織り交ぜて、200ページをこえる本を作りました。それを森岡さんが扱ってくださって。茅場町時代の森岡書店のこじんまりとした空間で、展示をさせてもらったんですね。
あれが始まりですかね。

森岡:今回の作品『Elnias Forest』の舞台はリトアニアということですけれど、リトアニアは今年アニバーサリーなんですってね。

津田:今年、独立100年なんです。とはいえ独立といってもあの国はどこで独立というかは難しいのですが。これまで何度か独立して、また領土が変わってと、とても複雑な国なんですけれども、大きな独立からは100年という節目なんです。たまたまそのタイミングで写真集を出すことになったんです。

森岡:100年というと、1918年に独立ということですか。

津田:でも、僕の感覚では今のリトアニア(共和国)が歩み始めたのは、28年前の独立の時(※)。今回の写真集に関わってくれたリトアニア人の中に、独立元年生まれという20代の若者もいて。そういう意味ではとても若い国ですね。揺らぎ続けた国。日本人にとってはつかみきれない感覚だけど、国っていうものが確かなものとは限らないということを感じている人々なんですね。

(※)ロシア帝国であったリトアニアは1918年に一度リトアニア共和国として独立するが、1940年にロシアに占領され、リトアニア・ソビエト社会主義共和国として建国される。1990年にリトアニア共和国として独立宣言。現在の歩みを続けている。

ー続きますー


ープロフィールー
津田直
写真家。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。2001年より個展を中心に多数の展覧会を開催。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。2012年より東京と福岡の二拠点にて活動。

ーインフォメーションー
『Elnias Forest』 
版元:handpicked
金額:¥5,500+税
デザイン:須山悠里

森岡書店での展示は6月19日(火)〜24日(日)
トークイベントも開催予定!
6月21日(木)を予定。