「一冊、一室。」にいたる、”書店裏”での打ち合わせ。
「一冊、一室。」を妄想する旅。
本という窓を開いて出会った人、風景、もの……。
毎月どこかでおこっている「カケル 森岡さん」を伝えていく連載。
写真家 津田直さんとの話が続きます。
写真家はどんな気持ちでシャッターを押すのだろうか。

no.2  一度のシャッターの中に。

写真集『Eloisa Forest』のテスト刷りをめくりながら、話は進みます。


森岡:津田さんのお話は、何回かトークイベントに参加させていただいて聞いていますが、その姿勢がとても素晴らしいと思っていました。それから、いつかのトークイベントで被写体に対して2度しかシャッターを切らない、ということをおっしゃっていて。それがずっと心に残っているんですけれど。変な言い方ですが、今もそうですか?

津田:えーっと、その当時は、僕はどういう意味で2回って言ってました?

森岡:えーっとですね、本当は1回でいいんだけども。と。

津田:ほとんど1回しか撮っていないんだけども……。

森岡:そうだ!そうだ! ごめんなさい、1回で、空で1回、気持ちの中で押すかもしれないと、おっしゃっていたような気がします!

津田:作品になっているものは大体、1カットしか撮っていないから、前後のカットはぜんぜん違うカットなんです。一般的には撮影をする時って、目を閉じるとかいろんなハプニングがあるから、2〜3枚撮るってことだと思うんですけれど、例えば(作品の1枚を見ながら)この目をつぶっている写真とかでも1回しか切ってないんです。作品を発表するときって、タイトルとか、名前をつけるじゃないですか。そういう意味でも名前はふたつはいらない。ひとつしかいらない。ひとつにしなければならないから、写真も無駄にはできないというか。今はデジタルだから、あとで捨てればいいというかもしれないけれど、捨てるっていうことよりも、集中して、1回で決めておきたいという気持ちがあるから、押さえっていうのができないんですよね。

編集室:素人質問ですみません。ということは、この1枚に辿り着くまでにどんな手順を踏んでいるんでしょう?自然の中には多くの情報があるので、どんな風に観察して、1枚を撮っているのかな、と。


「エリナスの森」より
© Nao Tsuda, Courtesy of Taka Ishii Gallery Photography / Film

津田:例えばこの写真だと、見た人は「見上げている写真」と思いますよね。まさにこれはポスターになった写真なんですけれど、森の中ですっと上を見上げているんですが、この時の自分のイメージは、落ちてきたものを拾う感じなんです。撮るっていうよりは、パッと上を見上げた時に、自分のカメラに1枚の葉っぱが落ちてくるのを拾うくらいの感じで、こういう写真が落ちてきているイメージで見ているんです、自分の中では。だから全体の中から切り取っているというよりは、『自分の中心で受け止められるな』と思っていたからシャッターを切れた。つまり、多くのものが見えているのではないんです。落ちてくるものと自分をどうピタッと合わせるか、というか。だから自分が受け止められない時にはシャッターが切れないんです。「写真は出会い」っていう言い方をするかもしれないけれど、やっぱり向こうから押し寄せてくる力と、こちらがすくい上げる力がうまく合わないと、撮ったつもりでもこぼれ落ちてしまう。自分自身は構成で撮るという感じではないから、写真を後で振り返った時に、記憶が飛んでるくらいの感じっていうか。でも受け取った意識だけはあるので、感触だけは残っている。ベタ焼き(コンタクトプリント)を見た時に、ああ、やっぱりこれを拾ったんだ、という感じにはなるんですよね。

ー続きますー

ープロフィールー
津田直
写真家。世界を旅し、ファインダーを通して古代より綿々と続く、人と自然との関わりを翻訳し続けている。2001年より個展を中心に多数の展覧会を開催。2010年、芸術選奨新人賞美術部門受賞。2012年より東京と福岡の二拠点にて活動。

ーインフォメーションー
『Elnias Forest』 
版元:handpicked
金額:¥5,500+税
デザイン:須山悠里

森岡書店での展示は6月19日(火)〜24日(日)
トークイベントも開催予定!
6月21日(木)を予定。