「一冊、一室。」にいたる”書店裏”での打ち合わせ。 「一冊、一室。」を妄想する旅。本という窓を開いて出会った人、風景、もの……。毎月どこかでおこっている「カケル 森岡さん」をお伝えしていきます。第三回はキャンドルアーティストのマエダサチコさん。 8月に出版された『キャンドル教本: プロを目指す人のための応用デザインと制作技法』の展示の打ち合わせから、カケルをお届けします。 


no.1 ろうそくからキャンドルに


 200ページを越える厚さの『キャンドル教本: プロを目指す人のための応用デザインと制作技法』 (誠文堂新光社)。ライティングは春日一枝さん、編集は至田玲子さん、撮影は下村しのぶさん。春日さんと至田さんは以前も森岡書店で展示をしていただき懇意の仲。今日の打ち合わせにも同席してくださいました。©shinobu shimomura



森岡:マエダさんは趣味でキャンドルを作り始めて30年。キャンドルアーティストとして活動を始められて20年になるんですよね。たくさんインタビューを受けてこられているから、私も何をうかがおうか悩ましいのですが……。ここ20年でずいぶん、人々の暮らしやライフスタイルへの意識が変化したと思うんです。20年間でマエダさんのキャンドルの接し方や、キャンドルと暮らしへのひも付き方というのは変わった、と感じますか? 

マエダ:はい、変わりましたね。以前はろうそくと呼ばれていました(笑)。クリスマスシーズンにしか売れないから、と雑貨店でもなかなか取り扱いがなかったように思います。今のような楽しみ方をするキャンドルとなったのは、15年くらい前かな? 多分、ユナイテッドアローズに「ディプティック」が入った頃ではないでしょうか。ざわざわっとしたような記憶があります。 

森岡:ディプティック! 私も那須のSHOZO CAFEに併設されていたSHOZO ROOMSで、初めてディプティックのアロマキャンドルをかいで胸を打たれた記憶があります。私が、香りが好きなんですよ。先ほどまで愛媛県へ出張へ行っていて、今東京に戻ったばかりなんですが、伊丹十三記念館へ行ってきたんですね。もう、素晴らしかったんですけども。そこで、伊丹十三さんが使っていた香水が記念館で売っていて買って来たんです。(と言いながら、香水を空中にたくさんふる) 

マエダ:え、そんなに?(笑)(あまりのふりっぷりに驚く)  こんな香りがしていたんですかね、伊丹十三さんて。 

森岡:これね、安いんですよ。2500円くらい。ドイツのケルンで作ったもので、コロンという名前の由来になったそうですよ。コロンの定番で、リーバイスでいう501のようなものでしょうか。

↑森岡さんの愛媛のお土産、4711オーデコロン ナチュラルスプレー(60ml)。「4711」は世界で最も歴史あるオーデコロンブランド。シトラス系のさわやかな香り。


マエダ:ディプティックももともと香水のお店なんです。私がフランスを訪ねた当時、灯をともさずにグラスをばんとたたいてなかにあるろうそくだけかぱっと出して、香りをかがせてもらったことがあります。 

森岡:戻すってことですよね。 

マエダ:そう、戻していましたね。当時は、おそらくパラフィンが材料として使われていたからグラスにくっつかないんです。今は、蜜蝋が多く入っているからそんなことできないんですけど。パラフィンだと、石油由来なので火を灯したとき、すすがすごいんですよね。今はすすが出ないように、蜜蝋を加えたりと材料も研究が進んでいるんですよ。ソイワックスなど自然素材のものが多く取り入れられて、素材がよくなっているんですよね。 

森岡:キャンドルも進化しているんですね。 

石油系、動物系、植物系とワックス(ロウ)の素材もさまざま。©shinobu shimomura


マエダ:マレーシアはパームワックス、韓国はソイワックスなど国によって販売している材料や得意、不得意な材料があるんですよ。日本は、仏壇でろうそくを使いますよね。ご先祖様が怒るとすすが嫌煙されるので、日本は芯が発達しているんですよ。

森岡:芯を作っている工場があるってことですよね。キャンドルの材料ってどこで買えるんですか? 

マエダ:材料のお店がいろいろあるんですよ。あと、東急ハンズでも売っていますよ。今は作る人がとても増えましたよね。でも、飾っても灯す人は少ない気がします。特に、女性は飾るけどもったいないからと灯さないみたいで。男性の方が灯すみたいですね。 

森岡:へえー、おもしろいですね。私もアロマキャンドルが好きで、お店でよく灯しています。 

マエダ:ご自分で作ってもいいですよね。簡単ですよ。 

森岡:香水を作ろうという構想があるんですよ。物語をテーマにした香水。本と一緒にパッケージして販売したり。その香りのなかで朗読会をしてもいいですよね。 


続きます 


プロフィール 

マエダサチコ 

アートキャンドル協会理事長。Candle.vida主宰として、東京、大阪、仙台でスクールを展開。子供のころからの趣味であるキャンドルを1998年に仕事として始め、当時日本には存在しなかったドーナツや花瓶に花がのったキャンドルなど、オブジェとしてのキャンドルを作り始めた第一人者。 2000年からキャンドルスクールをはじめ、現在は雑誌、テレビ、CM、展示などで本物と見間違えるような繊細で毒のあるかわいいキャンドルを作っている。著書に、『キャンドルづくりの本』(主婦の友社)、『キャンドルでつくるスイーツ』(文化出版局)がある。 candlevida.com