森岡書店は月に数回、出張で国内外を旅しています。 

旅慣れても通でもありませんが、 私たちがおもしろいと思った場所、ものごと、人を

 「森岡書店の観光案内」として不定期でお知らせしたいと思います。

 初回は、唐津焼で知られる唐津にやって参りました。

 海と山があって、街もいい。魚も酒もうまい。 

歴史好きで工芸、建築好きなら、なお楽しい。 

そんな唐津と佐賀を、歴史、工芸、建築をテーマに1泊2日で巡ります。


 Edit & Text:Tomoko Yanagisawa (morioka shoten)

 Photograph:Yumiko Miyahama   


11時 福岡空港着。レンタカーで唐津へ  


佐賀の旅の入り口は、福岡空港。目指す唐津へは高速道路を使って50分という近さ。今回は佐賀市へも足を伸ばすので、空港でレンタカーを借りました。もちろん、電車も高速バスも走っています。 そして、もうひとつの入り口が、九州佐賀国際空港。有明海そばにある空港で、日によっては東京から数千円という便も! 11時に福岡空港に着いた我々は、太宰府天満宮へ。唐津とは逆方向ですが、そのとき写真家の津田直さんが太宰府天満宮内の文書館で写真展をされていたこと、その文書館が普段は一般公開されていない美しい建物であること、なにより少し立ち寄りしても問題ないほど、唐津は福岡から近いんです。 





13時 旧唐津銀行。東京駅を設計した名建築家・辰野金吾の上京物語におののく! 


 


唐津に着いてまっさきに足を運んだのが、街のシンボルのひとつ「旧唐津銀行」。 辰野金吾の弟子、田中実設計による明治45年完成の近代建築です。 辰野金吾は、唐津が生んだ名建築家。ジョサイア・コンドルに学び、東京駅を設計したことで有名ですよね。 近代建築好きな森岡さん(※森岡書店も昭和4年築の近代建築に入居しています)には、お弟子さんの設計とはいえ辰野の影響を大きく受けた「辰野式」の旧唐津銀行はぜひ見たい建物でした。 辰野金吾は大の相撲好きだったそうで、東京駅の屋根の一部分に力士のまげ(大銀杏)をまねたデザインを取り入れた、という説明もありました。東京駅に大銀杏……。東京に戻ったらよく見てみることにしましょう。 そして、もうひとつ辰野金吾のエピソードを。 東京駅丸の内口のドーム天井にある干支のレリーフ。あれ、8つしかないんです。卯(う)、酉(とり)、午(うま)、子(ね)が欠けているんですね。 この欠けていた4つの干支。辰野金吾が設計した佐賀県武雄市の武雄温泉の楼門の2階天井に、ひっそりと彫られていたのが2013年の補修工事時に見つかったというではないですか。東京駅も武雄温泉楼門も、完成は同じ1914年。 このときの辰野は60歳。晩年の遊び心か、なにかのメッセージなのでしょうか。 

https://www.city.karatsu.lg.jp/kankou/kyoiku/leisure/shisetsu/kanko/documents/zinbutu-2.pdf






現在は、無料で一般公開されている旧唐津銀行。 特別に唐津市役所生涯学習文化財課の岩尾さんに、案内していただきました。 この岩尾さん。「建築のことはあまりわかりませんが……」とおっしゃっていましたが、とにかく幕末の歴史にお詳しい。 他の藩に比べて近代化に出遅れた唐津藩のことや、18歳だった辰野金吾に英語を教えたのが高橋是清(※後に日本銀行総裁をはじめ、大蔵大臣、内閣総理大臣も務めた)だったこと。是清は当時、借金で首が回らず東京から遠く唐津まで英語を教えにきていたこと。そして、彼もわずか18歳だったこと……! そのおもしろさに、ほかの見学者も輪をつくって聞き入るほど。 



森岡さんが特にくいついたのが、このふたつのエピソード。  

高橋是清が東京に帰郷すると、辰野も高橋を追って同窓の曽禰達蔵とともに上京。船を乗り継ぎ、大阪から横浜まではなんと徒歩の旅。完成したばかりの横浜〜新橋間の鉄道も利用したとはいえ、12日かけての上京物語です。 そして、20歳のとき工部省工学寮第1回入学試験に合格。のちの東京大学工学部となる教育機関ですが、この寮で「成績順にわけられて曽禰達蔵と片山東熊が同じ部屋だったんです。しかも維新前は曽禰も片山も彰義隊に属していたのだというから歴史はわかりませんね」と岩尾さん。「ええー!」と森岡さんがのけぞっていますが、片山東熊って、誰ですか!?  曽禰達蔵(唐津藩士。丸の内の三菱オフィス街の基礎を築く)と片山東熊(長州藩士。赤坂離宮や迎賓館など宮廷建築に携わる)。戊辰戦争で命拾いをした若い藩士たちが、のちに偉大な明治の近代建築家となったわけですね。  歴史にうとい私とフォトグラファーの宮濱さんは混乱気味ですが、2018年は明治維新から150年。歴史の大きなうねりのなか駆け抜けた辰野金吾、曽禰達蔵、片山東熊らの人生に一同大きな感動を得たのでした。 




旧唐津銀行 

佐賀県唐津市本町1513-15

 9時〜18時(入館は17時40分まで) 

無料